脳死移植
讀賣新聞の朝刊・くらし面に「医療ルネッサンス」というコーナーがあります。先週から今週にかけて「岐路に立つ脳死移植」と題してのシリーズが5回に分けて掲載されていました。
昨年ブログを始めた当初に「臓器提供意思表示カード」について書いたこと(カテゴリー『心と体』2005/4/16,2005/9/8)、今井友輝くんが拡張型心筋症で海外での心臓移植のための募金を集めていると知ってブログでも紹介・協力を募る記事(カテゴリー『心と体』2005/9/26,カテゴリー『友輝くんを救う会』)も載せたこと。(現在、友輝くんは海外での手術も終わり、日本に帰国、療養後退院。養護学校に通学する予定で待機中) そんな関連でこのシリーズは見落とせないと読み続けました。
2006.9.26に続きの追記をしました。以前途中まで読まれた方はその後も読んでいただければ幸いです。
①法の壁・・・1997年「臓器移植法」施行。15歳未満の脳死者からの臓器提供を認めない。そのため、子どもの患者は海外での移植を受ける以外に道が無い。その「施行から今年6月までに82人の小児患者(18歳未満)が海外での心臓移植を希望し、44人が移植を受けたが、受けられないまま27名がなくなっている。臓器移植法は施行3年後に見直すとされているが、いまだ見直されずに来月で9年を迎える。
②外国人制限枠・・・小児患者が臓器移植を受けるには海外でしかない。保険は利かない。渡航費や滞在費もかかる。費用の面でも難しい上にまだ問題がある。欧米での臓器移植仲介組織は、病院ごとに移植を受ける患者の外国人枠を、全体の5%に制限しているのだ。自国民が移植を受けられなくなるのを防ぐ狙いがある。そのため、海外での移植を希望しても受け入れ病院が見つかりにくい。
国内では現在、心臓移植を希望する患者約90人が日本臓器移植ネットワークに登録しているが、成人でも国内での移植は年に数件に留まっている。しかも平均待機期間は665日で、5年を超えた人もいる。一方、米国では重症患者なら平均56日。そのため、深刻な病状の患者が海外へ渡る例は減らないという。
③ドナー遺族の苦しみ・・・亡くなった妻の臓器提供に同意したAさんは、臓器提供者の遺族で作る「ドナーファミリーの会」事務局を務める。Aさんご夫婦はドナーカードを所持していた。きっかけは次男が腎臓病を患い、人工透析をするも病状が進み、何度も病院に駆け込むことがあったことだった。「親としてできるのは、これしかない!」と妻が腎臓の一つを提供した。移植後次男は全く出なかった尿がでるようになった。妻は移植医療で得た幸せに感謝し、「私が脳死になった時は、臓器を使って欲しい。」とカードに署名した。数年前、妻はくも膜下出血で倒れ、一時は意識を回復するもその後2度も出血を繰り返した。「回復の可能性は99%無いと思う。」と言う医師の言葉に、Aさんはドナーカードを提示した。次男は人工透析装置を操作する臨床工学技師となり、腎臓疾患の医療に携わっている。
2002年、日本臓器移植ネットワークが臓器提供者の遺族に呼びかけ会合を開いた。Aさんも参加。そこで耐え難い心の痛みを抱える家族がいることを知った。臓器提供は無償の行為なのだが、ご近所から「臓器を売ったのか?」と冷たい目で見られる、親類からは「亡くなった子の体を(臓器提供で)傷つけるとは何事か」と攻められる親等・・・。悩みを打ち明ける場が必要と感じたAさんは翌年「ドナーファミリーの会」を設立した。Aさんは「国は、臨床心理ら専門家によるカウンセリングなどドナー家族を支える体制を整えて欲しい。」と訴えている。
④生体移植の後遺症不安・・・脳死者からの臓器移植が進まない日本では、患者の家族ら健康な人が肝臓、腎臓などを提供する「生体移植」が”主役”だ。しかし、臓器提供者(ドナー)にとって危険と隣合わせの医療でもある。千葉県の鈴木清子さんの場合。娘さんが生後3ヶ月で胆道閉鎖症と診断された。11歳の時病状が悪化し、父親が肝臓を提供する。術後、病状は回復したが拒絶反応が激しく再び悪化。3年後、次は母親の清子さん自身が肝臓を提供、娘さんは再移植を受けた。しかし、40日後15歳で亡くなった。
鈴木さん夫婦はその後、移植患者・家族らが電子メールで情報交換するメーリングリストの書き込みに驚く。「生体移植後、提供した方が手術後の合併症に苦しんでいる。」とあった。鈴木さん夫婦は体調に問題は無いが将来の不安を抱いた。そして書き込みをした家族を含む仲間と「生体肝移植ドナー体験の会」を設立。翌年、”全国の提供者を対象とした調査実施をして欲しい”と厚生労働省に要望した。その声に押されて日本肝移植研究会がまとめた報告によると「何らかの症状がある」(傷の引きつれ、感覚の麻痺、疲れやすさ、膨満感、違和感等)と58%が回答。提供者の26%は定期的検診を受けていなかった。移植患者が亡くなった場合、提供者も病院と縁が切れることが多いのも原因の一つと考える。移植に関わる患者、提供者、その家族が安心できる環境整備を急ぐ必要がある。
それにも増して、健康な人を傷つけずに済む脳死移植の普及が望まれる。
⑤臓器提供意思表示カードの基準緩和への願い・・・ある女性が脳死と診断された。その意志表示カードには心臓・肺・小腸には○、肝臓・腎臓・膵臓に×があった。しかし、余白には「肝・腎・膵は移植に使えるなら提供しますのでお願いします」と書かれていた。脳死移植には従来カードの記載に厳格さが求められ、このような例では意思が明確でないとして×をつけた臓器の提供は出来なかった。同様な記載不備はカード所持者の1割にあると言う。
これではせっかくの提供が生かされないとして、厚生労働省は2004年12月、不備があっても本人の署名があり提供の意思が確認できれば可能との方針を打ち出した。この例も認められ、心臓と膵臓が提供された。運用基準の緩和により脳死提供した47名中2名が記載不備でも提供できた。
しかしほかに大きな障壁がある。臓器摘出が可能な「提供施設」が全国に約470病院しかないという。カード所持者の半数は提供施設以外に運ばれるのだが、脳死判定のために提供施設外から提供施設へ搬送することは認められておらず、移植に結びつかない。妻の臓器提供に同意した男性は「妻は提供施設で亡くなったが、提供施設外で倒れ、提供できなかったとしたら、一生悔やまれると思う」と話した。カードに『提供施設への転送を望む』と記入できるようにして欲しいとも言う。
さらに子どもの心臓移植ができないなどの課題もある。先の国会では臓器移植法を改正する2案が提出された。「患者の意思が不明でも家族が同意すれば年齢に関わらず臓器提供を可能とする案」、「臓器提供できる年齢を現行の「15歳以上から」、「12歳以上から」に引き下げる案」だ。
日本移植者協議会理事長・大久保さんは指摘する。「法施行3年をめどに見直すとされたのに放置してきた国会の責任は重い。」「3・4歳の子どもの患者も含め、幅広く移植が行える『家族同意案』が望ましい」と。
心臓移植を必要としながら毎年300~600人の患者が亡くなっているそうだ。脳死移植の論議を活発させるべきだ。(坂下 博)←記事の筆者名
注意:上位の文は全て讀賣新聞朝刊・くらし面「医療ルネッサンス」<岐路に立つ脳死移植>の記事を抜粋、そして私タムが要約・編集してます。文のつたなさはあしからず(^^;)
ここからは私の想いです。私は⑤にある「臓器提供意思表示カード」を所持してます。あまり深くも考えず、死んだら(脳死状態も含め)自分の体が傷つこうが移植を望むどなたかの役に立ちたいと記入しました。でも、このシリーズを読んでそれほど単純に役に立つわけではないんだと思い知らされました。また、いかに日本では脳死者からの移植が進んでいないか、生体移植に関連する問題、昔ながらの古い日本人の考え方、日本の法律改正への遅い対応とまだまだ多くの問題が残されていることを知りました。
この記事を通して脳死移植の問題がクローズアップされることを願いつつ、私は無駄かも知れませんが「臓器提供意思表示カード」に次の言葉を手書きで加えてみました!
「臓器提供施設への転送を望みます」
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コメント
コメント返しが遅くなりゴメンナサイ!
▽トムジェリさんへ
呉市は臓器移植への関心が高いですね。国民健康保険がカード化されることも最先端ですが、さらに臓器提供表示意思欄があるとは!その存在さえ知らない人が多い中で国保の保持者全員にその機会を与えるという呉市に座布団10枚くらいあげたい思いです(笑)
記事を読んでいただいて、さっそく提供施設が近くにあるか捜したトムジェリさんへも座布団を差し上げたい(  ̄ー ̄)ノ◇ 「ザブトンアゲマス」
私も捜してみます。言って置きながら、私は探しもしていなかったから・・・\(_ _。)ハンセイ
投稿: タム | 2006/10/09 10:43
今年10月よりわたしの住んでいる呉市では、
国民健康保険証がカード化され、そのカードの裏に
臓器提供意思表示欄というものができ、
保険証と同時にドナーカードになっております。
でも、私個人としてはまだ脳死判定には疑問があるので、
心臓停止後の提供にしか○をつけていません(^_^;)
タムさんの記事を読んで、提供施設が呉市の中にあるかどうか調べてみると2箇所ありました。
なので、わたしも「臓器提供施設への転送を望みます」と書き加えておきました。
投稿: トムとジェリー | 2006/10/01 12:19
▽浜辺の月さんへ
臓器移植の特に心臓移植の場合は脳死状態のドナー以外の提供はあり得ない。日本の現状では脳死の臓器移植の意思を示す人が少ないことが待機日数に繋がっていると思います。臓器移植の問題をもっとクローズアップさせて国民の多くが「臓器提供意思表示カード」の存在を知るようにし、カードを持つようにならなければ・・・。まずはそこからですね!また、15歳未満の臓器移植を禁ずる法律の見直しも早急に必要ですね。本当に日本の対応は遅過ぎる。まずは世論で持ち上げなければ・・・、そう思います。
(いまだと飲酒運転の事故のことが例え小さくてもクローズアップされて皆の意識が変わりつつあるのもいい例だし、横田さんご夫妻や拉致問題家族会の報道や国会への働きかけ、講演会なども功をそうしている例のように)
▽ミッチさんへ
ミッチさん、2度も貴重なコメントありがとうございます。今、検索で「臓器移植法を考える」というサイトを見てきました。全文を見たわけではありませんが、まず、ミッチさんが始めのコメントでご指摘の「小児患者は認められないのはどうして?」とありますが、私もその疑問は以前から抱いてました。
まず、日本の移植法の法律は世界の中で一番、「人間の尊厳」を尊重し「本人の意思」を大前提に作られているそうです(他国は家族の承諾があれば認められるそうです)。そのため、例え子供であっても尊厳を重視する点から考えて、15歳未満では自分の死(脳死)に対して「本人の意思」を判断できる年齢ではないと判断しての規定だそうです。私もそういう考えからの15歳未満の禁止だったと理解しました(とはいえ、私自身はその年齢が妥当だとは思いませんが・・・)
ミッチさんには私のこの記事の想いがわかって頂けるとは感じていました。追記に関して新たにコメントくださったことですごく感じております。うれしいです。そしてやはり「臓器提供意思表示カード」を持っておられたのですね。今回の記事では私も一番ショックだったのは「提供施設が限定され少ないことと施設外から提供施設への転送ができない!」と知り驚きました。これではせっかくの臓器提供希望が生かされないわけだ。出来ないのには訳があるのでしょうが、現時点では納得できませんね。この法律が「人間の尊厳」や「本人の意思」を重視しているのと言うのなら、この不都合は解決すべきだと私は思うのです。
<参照サイト>
「臓器移植法改正を考える」
http://www.lifestudies.org/jp/ishokuho.htm
投稿: タム | 2006/09/30 10:42
前回に続き、9月26日追記の長い文、読ませて頂きました。実にいろいろの事を学ばせてもらい、よくわかりました。ご苦労さんでしたね。私も前から、生体移植の場合の後遺症の不安は持っていました。だから脳死移植の普及は個人的にとても願っていたことで意思表示カードも持っています。でも簡単には割り切れない問題を含んでいるんですね。それに、今回わかったことの1つに「提供施設」があります。提供施設外から提供施設に搬送することは認められておらず、移植にならないとのこと。知りませんでした。しかも提供施設が少ないことも。だからタムさんのように提供施設への転送を望むと言葉を加えたくなったのですね。いろいろな問題があるのですね。皆がよく理解できるように、脳死移植の問題がクローズアップされるといいですね。
投稿: ミッチ | 2006/09/28 22:41
昨年、タムさんが臓器意思表示カードの説明を詳しくしていたこと、よく覚えています。それに今井友輝君の記事を思うにつけ、その場限りでなく継続して深い関心を持っていることに敬意を表します。
こちらでも海外で移植を受けるため、募金をしている記事が時々載りますが、そのたびになぜ日本では?と思っていました。多分、法の壁だとは思っていましたが、その臓器移植法が9年も見直されずにいるという事実に暗澹としました。外国人制限枠はわかりますが、その為に未来ある若い命が27人失われているとはね。具体的に数字を出してくれたのでびっくりしました。しかも待機期間が665日だなんて。私も臓器移植に関して勉強したわけじゃないのでよくわかりませんが、わが国で小児患者が認められないのは何か不都合があるのでしょうか。早く臓器移植法の見直しをして欲しいと思います。続きがあるのですね。待っています。
投稿: ミッチ | 2006/09/24 17:24
こんばんは、タムさん。
そう言えばあまり国内での移植手術の報道を聞かないな~~って思ってました。
一般化しているから聞かないのかと思ってました。
平均待機期間が665日、アメリカは56日。
相当違いますね~~。
すぐにアメリカ並というのは無理があるでしょうが、もう少し待機期間が短くなるといいですね。
それに、小児の心臓移植が日本では道がないというのは、本当に大変ですね。
何とか改善されるといいですね。
タムさんの記事の続きも読みたいです。
投稿: 浜辺の月 | 2006/09/23 23:07